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居城の一室

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Light and Night・1

 1992年9月 オレたちはこの世に生を受けた。
 同じ母から産まれた双子のオレたちは「明良」と「紗夜」と名付けられた。
 二卵性双生児の姉妹として産まれてきたオレたちだったが、小さい頃はよく「そっくりだね」と人から言われてきた。
 そういわれるたび、オレたちは嬉しかった。
 母は顔を覚える前に死に、忙しい父もオレたちに構ってくれることなどほとんどなかった。
 だから、いつも隣にいてくれるお互いの存在が「特別」であることが嬉しかった。
 この先もずっとずっと、いつも一緒にいるものだと、幼いオレたちはそう信じて疑わなかった。





 小さい頃のオレたちは、何をするのも一緒だった。
 遊びに行くときも、食事のときも、寝るときも。
 よくオレらに構ってくれた理沙ねーさん――オレらの従姉に当たる、親戚の姉さんに会いに行くのも。
 オレたちは理沙ねーさんの嫁ぎ先へ遊びに行くのが大好きだった。
 家にいてもやれ礼儀だやれ勉強だとうるさいばかりで、誰も絵本の一つも読んでなどくれなかった。
 でも、理沙ねーさんはオレたちとよく遊んでくれたし、彼女にはオレたちと年の近い息子もいた。
 それと、ねーさんが嫁いだ時に一緒に連れてきた執事の源蔵さんもオレたちをよく可愛がってくれた。
 その時、源蔵さんがよくオレたちに聞かせてくれた昔話。
 『闇を纏う剣士』が、悪い化け物を倒していく英雄伝。それは、当時のオレたちにとっては、アニメの主人公なんかとは比べ物にならないほどのヒーローだった。それは、オレたちの一番の憧れだった。
 いつか、オレたちも『闇纏う剣士』になろう。そう、よく口にしていたものだった。
 オレたちは「特別」だから、二人でならなんでもできると思っていた。

 それからオレたちは大きくなり、それぞれの個性や違いがわかりやすくなっていった。
 オレは大雑把で何でも力任せでやっていくようになり、紗夜は真面目で几帳面な性格に育った。オレは理沙ねーさんに影響されて男みたいな口調になったが、紗夜は自分を「私」と呼び堅苦しい口調を好んだ。
 顔立ちも段々と違ってくるようになり、次第に「そっくりだね」と言われることは少なくなっていった。
 それでもオレたちにとってお互いが「特別」であることに変わりはなかった。父が再婚しても、その義母との間にできた弟が産まれても。
 それを誓い合うように、オレたちは肩の辺りまで伸ばした髪をお互い対になるように片側で結っていた。オレは右片側、紗夜は左片側に。
 勉強は真面目な紗夜の方ができたけれど、源蔵さんから教わり始めた剣道も、理沙ねーさんが教えてくれるお菓子作りも共に学んでいった。
 オレたちは一緒に強くなっていった。
 そのはずだったのに―――





 それは、中2の夏休み間近。オレたちは剣道部の部活動帰りだった。
 近所にできたというお菓子屋に寄ったために遅くなり、外はすっかり暗くなっていた。

「んじゃ、またなー」
「また明日。気をつけて」
「ん、またねー。……あ、気をつけてといったらさ」

 別れ際、部の友達の一人が思い出したように手を合わせて言った。

「最近さ、この辺に変質者が出るらしいよ?2人共気をつけて帰りなよ」
「なんだと!それは本当か!?」
「噂だけどねー。でも、連れてかれてそのまま行方不明になった子もいるって話だし、気をつけた方がいいよ?」

 ま、あんたらじゃ返り討ちかもね、と女友達は笑い返した。
 この頃からすでに、オレも紗夜も自分の腕に自信を持っていた。段位も持っていたし、その強さは周囲も認めてくれていた。だから、そこらの変質者程度その気になれば簡単に倒せると本気で思っていた。
 じゃあねとその友人たちと別れ、オレたちは家へと急いだ。
 が、その途中。はたと、紗夜が立ち止まった。

「すまない、姉さん。新しいノートを買うのを忘れていた。ちょっと文房具屋に寄っても構わぬか?」
「なんだよ、それくらい明日でよくないか?」
「明日の授業に必要なのだ。朝慌てて買いに行きたくないからな」
「えー、オレ帰って見たい番組があるんだけど。一人で行けよ、ガキじゃないんだし」
「え、いや、しかし…」

 言いよどむ紗夜を見て、ははーんとオレは笑う。

「なんだよ?もしかしてさっきの変質者の話が怖かったのか?」
「ち、違う!私は姉さんが危険ではないかと思って…!」
「だったら、心配いらねぇよ」

 意地になって否定する紗夜にくすりと笑い、手にしていた竹刀を肩にかける。

「オレはそんなのに負けるほどヤワじゃねーよ。お前だってそうだろ?紗夜」

 オレの笑みを見て、紗夜も強張らせていた顔を笑ませた。

「…もちろんだ。私も生半可な鍛え方をしていないからな」
「なら、安心だな。…じゃ、先に帰ってるぜ」
「ああ、それじゃあ」

 そしてその日、オレたちは別々に帰った。
 あの時。もし一緒に帰っていたとしたら、あるいは今とは違う道を歩いていたのかもしれない。

 
 


「あ…、あの…」
「……ん?…オレ?」

 家へと急ぐ帰り道、人もまばらな住宅街。そこでオレは声をかけられ足を止めた。
 声をかけてきたのはおとなしそうな黒い髪の女性だった。

「このあたりの人ですか?ちょっと道を窺いたいのですが…」
「え?んー…。…まぁ、いいですよ。どこですか?」

 早く家に帰りたい、と少し思ったがここで断るのも申し訳ないと思ったオレは女性に問いかけた。

「このお店なんですけど…私、方向音痴なもので…」
「ん?えっと…。……あぁ、あそこか!」

 女性の持っている携帯に記された地図を見てしばらく悩んだ後、オレは店の場所を理解した。
 そう遠くはないが、なるほど確かに入り組んだ場所にある店だった。

「ここなら案内できますよ。店まで送りましょうか?」
「えっ、でも…」
「最近、不審者が出るらしいですから。女性一人じゃ危ないでしょうし」

 申し訳なさそうにする女性に、オレは笑って返す。
 地味な雰囲気の人だが、よく見たら美人だしスタイルもいい。なにより気の弱そうな人だったから、もしも何かあったら抵抗できそうになさそうだと思ったからだ。
 オレの提案に、それじゃあお願いしますと女性は頷いた。
 テレビは見逃すかな、と胸中で自嘲しながら、オレはその女性を目的の店へと案内した。

「…それにしても、不審者なんて怖いですね。物騒で」
「そうですね。あなたも帰りは気をつけた方がいいですよ。美人だし」
「そ、そんなことはないですよ!それなら、貴方の方が気をつけた方がいいんじゃないですか?」
「オレ? 何言ってんですか。オレなんかが狙われるわけないじゃないッスか」

 笑いながら、オレは道を曲がる。人通りのない道へ。

「あら、そんなことはないわ」

 女性も、それを追って曲がる。

「だってあなた、とっても美味しそうだもの」
「っ!?」

 咄嗟に身構えようと振り返ったが、向こうが後ろからオレを押し倒す方が早かった。
 オレに馬乗りになった女はさっきとは全く違う妖艶な笑みを浮かべていた。

「ふふ…っ、素直で可愛い子ね。あなた」
「てめ…っ、離せ!」

 まさか変質者が女だとは予想もしてなかった。
 必死に抵抗するが、女の細腕とはとても思えない強い力で押さえつけられて動けない。

「うふふ…。どうやって食べてあげようかしら」

 抗おうとするオレを見て、楽しげに女が笑う。その背後から細長い何かが現れる。
 それは、制服の襟から露出している俺の首元めがけて飛び掛ってきた。

「――ッ!!」

 鋭い痛みが走る。
 “それ”はヘビだった。ヘビの牙がオレの首に突き刺さったのだ。

「な…っ!へ、ヘビ…っ!?」
「ふふっ、怯えた顔もかわいいっ」

 語尾にハートマークでもついてそうな調子で、女は顔をひきつらせるオレの首筋に顔を寄せると、そこから流れ出る血を丁寧に舐め取る。ぞくりと悪寒がした。

「んふ…。やっぱり、おいしっ」
「や…っ、やめろっ!くそっ、離せこのクソアマ!」
「だぁーめ。…もう生きて帰さないから。ここで美味しく食べてア・ゲ・ル」

 妖しく笑う女は、いつの間にか一矢纏わぬ姿になってオレの上に覆いかぶさった。
 そして気付いた。先ほどのヘビはこの女の身体から生えていることに。

「ば…っ、化け物…っ!?」
「ぴんぽーん。…だけど、気付いちゃってももう手遅れ」

 笑う女のヘビは数を増やし、こちらへと視線を向ける。
 そしてオレはようやく気付いた。行方不明になった奴らはみんな、この女に文字通り喰われてしまったのだと。

「さってとー…。味見もしたし、どこから食べてあげようかなー?」

 見定めるようにして、女はオレの身体をまじまじと眺める。その視線が、首の下で止まった。

「きーめたっ!このおっきくなりかけの胸にしーよおっと!やわらかくておいしそー!」

 そう笑った女が、膨らみ始めてきたオレの胸に手を伸ばし、舌なめずりする。
 それに応えるように、女のヘビがオレへと襲い掛かってきた。

「ぐあぁぁぁぁっ!!」

 ヘビがオレの手足に噛み付き、オレの自由を奪う。ヘビの牙がオレの手足首に深く食い込み、四肢に痛みが走る。
 ――もうダメだ! そう思ったときだった。

「――姉さん!?」

 聞きなれた声が人気のない路地に響く。顔を上げ、そちらを見れば、そこにいたのは――

「紗夜!!」
「ね、姉さんなんだその痴女は!?」
「気をつけろ!コイツは化け物だ!!」

 驚き目のやり場に困り、赤くなる――こいつはグラビアの水着もまともに見れないくらいの照れ屋だ――紗夜に必死に声を上げる。
 だが、紗夜が満身創痍のオレの姿を認めるとその表情は羞恥から憤怒に変わった。

「あら…、妹さん?あなたもおいしいかしら?」
「姉さんを放せ、この痴れ者!!」
「やめろ、逃げるんだ紗夜!!」

 紗夜はオレの静止も聞かず、そちらへと振り返った女へと竹刀を振り上げ突っ込んでいく。
 女は、それに応えるようにヘビを紗夜へと向かわせる。
 紗夜は一匹、二匹とヘビをかわすものの、多くのヘビを全て避けることは叶わず、一匹のヘビが喉を掴みあげるように紗夜の首に絡みついた。

「が…っ!」
「紗夜ぁーーーっ!!」

 苦しそうにうめく紗夜を見て、オレは頭に血が上った。
 女は傷で動けないオレから離れ、つるし上げられている紗夜へと近づいていく。

「…あら、妹っていうから期待したのに…。あなた、それほどおいしくなさそうね」
「やめろ!紗夜に手ぇ出したら承知しねーぞ!!」
「ねぇ…さん…」

 どくどくと傷口から血を流し、頭が朦朧としながらもオレは女に怒声を浴びせた。
 弱弱しくこちらへ視線を向ける紗夜の横で、女は楽しそうにくすくすと笑う。

「美しい姉妹愛ね。感動しちゃうわ。
 …でも、だぁーめ。あなたの目の前で、あなたの大事な妹さんをじっくり可愛がってから殺すってもう決めたの。
 でも安心してね。そのあとすぐにあなたも後を追わせてあげるから」

 そう言いながら女は紗夜の服の下へと手を滑り込ませ、ヘビもまた紗夜を拘束するように彼女へと絡み付いていく。

「や…っ!」
「やめろ、やめてくれ!!オレは好きにしてくれて構わねぇ。だから、そいつだけは…!」
「ふふ。…だって、サヤちゃん」

 こちらを見て笑いながら、女は紗夜の耳元で囁いた。

「お姉ちゃんが代わってあげるから逃げてもいいだって。
 …どうする?あたしはおいしそうなあなたのお姉ちゃんさえもらえればいいから、見逃してあげてもいいけど?」
「……っ!」

 苦しそうに顔をしかめこちらを見る紗夜。オレはその目をしっかりと見つめ返す。

「それとも、サヤちゃんはこのままあたしに遊んでもらいたいのかなぁ?」
「い…、嫌だっ!」

 かすれた声が、紗夜の口から漏れる。女の口に笑みが浮かんだ。

「こんな、ところで…辱められて、殺されるなんて、嫌だ…。
 ……でも! 姉さんを置いて一人だけ逃げるのは、もっと嫌だ!!」
「さ……や…っ!」
「…へぇ、本当にお綺麗な姉妹愛だこと。
 逃がしてほしいって言ったら苦しむ間も与えないで殺してあげたのに」

 感涙ものねー、と心にもなさそうに言う女が口の端を吊り上げた。

「それじゃあ…お望み通り、大好きなお姉ちゃんの見てる前でたっぷり可愛がってあげる!」
「やめろぉぉぉぉぉっ!!」

 びりぃぃぃっ!!

 女の手が紗夜のセーラー服を引き裂く音とオレの悲鳴が重なった。
 引き裂かれた上着から、白い下着と汗ばむ肌が垣間見えた。

 くそっ!オレがあんな化け物の手に落ちたりしなけりゃ…。いや、あの時一緒に帰ってさえいれば…!

 オレの胸の中に後悔があふれ出してくる。

「やめろ…、やめてくれ…っ!」

 女の赤い舌が紗夜の肌をなぞる。紗夜は悔しそうに顔をしかめながらも、唇をかみ締め悲鳴を堪えている。

 助けないと、紗夜を助けないと。
 オレがお姉ちゃんなんだから。オレが守らないと。

「…っくしょうっ!やめ、ろ…!」

 オレに、オレに力があったら。
 『闇纏う剣士』のような、力があったら。
 そう思った時、傷だらけで力も入らなかったオレの身体が自然と動いた。ふと見てみると傷口が仄かに光っていて痛みが引いていくのを感じる。
 オレは近くに転がっていた鉄パイプを掴み、ふらつく足で立ち上がる。

「やめろって言ってんのが聞こえねえのか!?」

 紗夜のスカートの中へと侵入しようとしたヘビがぴくりと動きを止めた。
 こちらに気付いた女が、初めてその端正な顔を歪ませた。

「やば…っ、こいつ目覚めちゃった!? みんな、先にあの子殺っちゃって!!」

 女の声に応えてヘビが一斉にオレに襲い掛かる。
 が、そのヘビの牙がオレに届くことはなかった。近づいたヘビは全てオレの鉄パイプで切り伏せられたからだ。
 鉄パイプで「斬る」なんて物理的におかしいはずだが、そのときのオレにはそんなことを考える余裕なんてなかった。

「ひ…っ! お願い、もうしないから許してぇ…っ!」

 女の化け物がぼろぼろと涙を流しながら懇願してくる。が、そこに同情の余地なんてあるわけがねぇ。鉄パイプに闇がまとわり付く。

「死んで詫びやがれ、この化け物がっ!!」

 ざん、と鉄パイプが化け物の身体を真っ二つに切り裂いた。
 化け物は醜い悲鳴を上げながら塵となって消えていく。
 その身を戒めていたものがなくなり、紗夜の身体はその場にへたり込んだ。

「――紗夜っ!」

 オレは鉄パイプを投げ捨て、すぐさま紗夜を抱きかかえる。
 制服は破かれ、締め付けられた痕が痛々しいが、見た感じ残るような傷はなかった。

「ねえ…さん…」
「紗夜、どこかつらくないか?あの化け物は姉さんがぶっとばしたからな!」
「…姉さん、私…っ!」

 紗夜はオレの胴にしがみつき、震える声で言った。

「怖かった…!」

 かたかたと震えながら、気の強い妹はオレの胸でぼろぼろと泣き崩れた。

「紗夜…」
「怖かった…。汚されて、殺されると思った…。怖かったよ…」
「大丈夫、もう大丈夫だからな…」

 泣きじゃくる紗夜を抱きしめ、あやすようにオレは紗夜の背中を摩った。
 紗夜はそれからしばらくオレの胸で泣き続けた。

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極稀に変わる偽ステシ

岡・耶麻(さて私は何処でしょう)
(おか・やま)
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『結社枠が足りない。』
明ちゃんレイナ様春美さん他若干名の背後にある残留思念。詠唱銀の振り掛け禁止。チョコと猫と幼女とノマカプと我が子をこよなく愛する。銀雨用メッセあったりします。お手紙でどうぞ。

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