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居城の一室

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Light and Night・4

 2010年9月、某県某所。

 ぴんぽーん

 古い日本家屋が立ち並ぶ田舎町。
 オレはその中でも一際大きな屋敷のインターホンを押した。

『――はい、どちら様でしょうか?』

 スピーカーから聞こえてきたのは、覚えのある声だった。
 その声に、オレは思わず変に緊張してしまう。が、ここで逃げるわけにはいかなかった。
 深呼吸ひとつして、オレはインターホンの声に答える。

「…オレだ。久しぶりだな」
『……!?』

 突然、ぷつりとスピーカーが切れた。その代わりに、屋敷から慌てた様子の足音が聞こえてくる。
 それから数十秒と経たないうちに玄関から現れたのは、長い黒髪に和服の小柄な少女だった。
 彼女はオレを見た途端、目を丸くして唇を振るわせた。

「あきら、ねえさん…!」
「……よぉ、紗夜」

 大分女性らしく成長してはいたが、そこには変わらぬ面影を持つ妹がいた。





「しばらく見ないうちに随分女らしくなったじゃねーか」

 残暑がまだ厳しい9月中旬。屋敷の中へと通されたオレは、この家の奥さんから出してもらったお茶を一口戴いてから、そう切り出した。
 最後に見た時には肩ほどまでだった髪は背中に届き、勇ましかった雰囲気も大和撫子のそれに近くなっていた。

「私だっていつまでも子供ではいられぬ。男の真似はもうできぬよ。
 それに、私はこの家に花嫁修業をしに来ているのだ。女らしくなるのは当然だ。
 姉さんこそ、年頃なのだから少しくらいは女らしさを身に付けてはどうだ?」
「うるせー。オレはこれが性に合ってんだ」

 久しぶりに聞く軽口に、オレはくすりと笑って答える。
 が、その表情も一瞬で曇る。

「……理沙ねーさんから聞かされた。お前が、オレの代わりに婚約の話を受けたって」
「……そうか」

 紗夜は手にしていた湯呑みを置き、小さく苦笑した。

「オレの勝手なわがままのせいで、お前の人生まで狂わせちまって…本当にすまねぇ」

 オレは妹に頭を垂れ、謝罪した。
 しかし、紗夜はオレの謝罪に首を横に振った。

「私が自分で決めた道だ。姉さんが気にすることではない。
 姉さんを更生させる為に無理に話を進めさせた縁談だ。それをこちらからなかったことにするなど先方の顔に泥を塗ることになる。そもそもの原因は私にあるのだからな。

 …それに、結果論だが……あの人と出会うことができた。喜ばしいことはあれど、微塵も悔いることはない」

 最後に付け加えるように呟く紗夜の表情は穏やかで嬉しそうだった。
 理沙ねーさんからも、その辺りの話は聞いていた。形としては政略結婚ではあるものの、紗夜はその婚約者とうまくいっているということも。でも――

「オレは、やっぱりお前に謝らなきゃならねぇ。
 結果としてうまくいったと言っても、お前から自由を奪ったのはオレだ。…すまない」
「…姉さんがそこまで言うのなら」

 紗夜は緩んでいた顔を引き締め、まっすぐにオレを見る。

「私からも謝らせてほしい。
 姉さんが家を飛び出したあの日、ひどいことを言ってしまったことを」

 紗夜の湯呑みを持つ手に力が入る。

「紗夜…」
「双子とはいえ、姉に対して…いや、誰であったとしてもあのようなことを言うべきではなかった。
 傲慢で、愚かな発言だった。…本当にすまなかった、姉さん」

 紗夜は、この4年の間ずっとあの一言を気にしていたのだろう。真面目な性格からそのことは容易に想像できる。
 だから――

「…あの時はオレも失言だったし、売り言葉に買い言葉だったんだ。だから、気にすんな」

 ぽん、と紗夜の頭に手を置いて、オレは微笑む。姉として。

「…遠路はるばる謝りにきておいてこんなこと言うのもなんだけど、多分オレらはこうなる運命だったんじゃないかなって思うんだ。
 ケンカして、バラバラになって、でも別れた先でなんだかうまくいって…こうして、互いに許しあうことが出来た。
 なにも悔いることはない。これでよかったんだ」
「ねえ、さん…」

 瞳が潤んできた紗夜の頭をオレはくしゃ、と撫でてやる。

「泣くなよみっともない。お前、高3にもなってまだ泣き虫が直らないんだな」
「う・・・、うるさい!姉さんこそ、その男口調を直したらどうだ!それでは嫁の貰い手が見つからぬぞ!」
「なんだと?」
「なにか?」

 にらみ合うオレと紗夜。しばしの沈黙が続き…

「…ぷっ」
「…ふふっ」

 ふき出したのは同時だった。
 こんな会話、本当に久しぶりでなんだかおかしかった。まるで、あの頃と変わらないかのようで。

「大きなお世話だっての。オレは理沙ねーさんをリスペクトしてんだ。
 それに、嫁の貰い手なら……」
「…姉さん?」



 でも、あの頃のままじゃいられないんだ。



「ぷ…プロポーズされた!?えっ、だって姉さんまだ高校生だろう!」
「わ、わかってるよ!…でも、誕生日に婚約指輪を贈られて…」
「ど、どんな人なのだ!?その、相手の方は…」



 生活も、外見も、進む道も、オレたちはもう何もかもが違ってしまった。
 能力者と一般人、家を捨てたものと家を守る者。道が交わることはきっともうないだろう。



「お前の旦那こそどうなんだよ?オレ、話すら聞かずに蹴ったからどんな奴かわかんねーし」
「とても素敵な方だ。姉さんの相手も良い方のようだが、劣る気はしないぞ。
 …姉さんが婚約を蹴ってくれて、本当に感謝しているぞ」
「うるせぇ!」



 だけど、これだけはたとえ何があっても絶対に変わらない。
 オレたちが、世界で唯一無二の“特別”であるということだけは。
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極稀に変わる偽ステシ

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明ちゃんレイナ様春美さん他若干名の背後にある残留思念。詠唱銀の振り掛け禁止。チョコと猫と幼女とノマカプと我が子をこよなく愛する。銀雨用メッセあったりします。お手紙でどうぞ。

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