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居城の一室

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Good bay sweetpain 『重い、想い 後編』




「いつか、この想いが届くことを夢見ていた」


 

『いつまでも、この想いが届かなければ良いと願っていた』


 


 顔を上げ、涙の溜まった目を見開いて言葉を失うオレを水那先輩は面白そうに眺めていた。

「………え?今、その…え?」
「……二度は言いたくないんだけど?
 …まぁ、答えは今じゃなくても良いよ」

 ケーキを食べる先輩を呆然と眺め、オレは言われた言葉の意味を考えた。
 付き合いたい?オレと?なんで!? いや、そりゃあすげぇ嬉しいし、今すぐにでも頷きたい。



 ――だが、脳裏によぎったのは灰色の髪の少女の姿だった。





「……大丈夫か?」

 頭の中がキャパ越えしてフリーズしたオレの頭を水那先輩が撫でた。
 いつものように照れてそれを振り払う余裕さえ、今のオレにはなかった。

「………ぁ、え、その…」

 気持ちが言葉にならない。いや、気持ち自体が整理されていない。
 オレは目の前のグラスを掴み、一気にその中身を飲み干して無理やり落ち着こうとした。

「………その…うん、えっと…」

 どうしよう、なんて答えればいい?自分に忠実に頷こうか?それともナズナ先輩に遠慮して断わろうか?
 …オレの口は勝手に動いた。

「…イブ、朝は空いてるのか?」
「……朝…何時?」
「9時。…屋上で叫ぶ時間。……聞きに、来てくれ」

 屋上、と言うのも学園公認のクリスマスパーティの一つで、知代子の友人である御鏡更紗が主催している、屋上で思いのたけを叫ぼうという企画だ。ちなみに知代子は逃げたらしい。
 本来オレはその知代子をおびき出すために彼女に対して叫ぶつもりでいた。

「……丁度授業中の時間だ。……偽身符に出てきてもらうか」
「偽身符でもなんでも使ってでも聞きに来い。とにかく聞け。お願いだから」
「……生で聞くから安心しろ。…大丈夫か?」

 やけになってケーキを口の中に押し込むオレに宥めるように先輩は問う。
 オレはケーキを飲み込み、深呼吸してから答える。

「……ちょっと、まだ混乱してる…」
「…落ち着くまで待つよ…」

 オレは先輩の言葉に甘え、数度深呼吸を繰り返した。
 1分足らずの時間だったがその間の沈黙がひどく長く感じ、それに耐え切れずオレは口を開く。

「……イブのとき、言うから…。屋上で、ちゃんと」

 水那先輩はひとつ頷くとオレの方を見た。

「…悪い話、聞く準備できた?」

 ふー、と息を吐いてオレは頷いた。

「……一応は」



 本当は、まだ頭の中はぐちゃぐちゃだったけど。





 悪い話というのはいつもダベっている結社裏の茶室にはもう顔を出さないということ。そして愛好会自体にもあまり顔を出さなくなるということだった。
 確かに寂しいことだが、今のオレにはあまりショックはなかった。きっとこっちを先に聞けばショックはあったのだろうが、さっきの衝撃が大きすぎた。
 代わりに陸先輩や恭助が茶室の管理をするとか、代わりにオレが定期的に遊びに行くよとか、そんな感じで話をしていた。

「んで……話ってそれだけか?」

 そろそろ遅い時間になるのに気付き問うオレに、水那先輩は頷いた。

「まぁ、基本的には。…これから付き合うにしろ、そうでないにしろ……会う機会は、少なくなるから」

 先輩の言葉に、オレの胸の奥が痛んだ。
 ずっと出す答えに悩んでいた水那先輩。さぞ苦しかったんだろう。
 次に苦しむのは、オレ。

「……………。…そっか。…そうだよな。
 …んじゃ、言いたいことは今のうちにどうぞ」
「言いたい事…」

 水那先輩はいや、特にはと頭を振った。

「……そっか。……んじゃ、最後に一つだけ」





 ――なんで、オレなんだ?



 オレは、先ほどからずっと聞きたかったことを尋ねた。
 水那先輩は小さく唸ってからオレに答えた。

「…しいて言えば、性格が合ってるから…かな?」

 ……そうだろうか?自分みたいなガサツで、乱暴で、時には変なことを聞いてくるような男勝りなのに女々しい女がいいと言うのだろうか?
 オレがそう尋ねると彼は小さく唸って考えては「感情の伝え方が、一緒なんじゃないかな?」と、答えた。
 いつも無表情の水那先輩とすぐに感情が表に出るオレ。…そんな風には思えなかった。

「…嫌なこと言ったら、殴って良いから。…嫌なことは嫌って、伝えて」

 そう言われ、ようやくオレは先ほどの言葉の意味を理解した。
 我慢することなく、素直な気持ちをぶつけてほしい。そういうことだったんだ。

「……じゃあ、オレももう遠慮しないから…先輩も遠慮しなくていいぜ」
「…うん。でも、手加減はして欲しい」
「さて、それはどうだろうな?」

 くすりと笑うオレに水那先輩は「体、鍛えるか…」と、ぽつりと呟いた。

「……それじゃ、うん。オレから今言いたいのはそれだけ。…ありがと」
「……そうか。…良かった」

 平らげたケーキの皿を置いたまま、オレは席から立った。

「……んじゃ、またイブにな!…オレもフォンデュの用意をしたらイブまで顔出さないつもりだし」

 正しくは出せる気がしない、と言ったほうが正しかったかもしれない。
 水那先輩はそうかと頷いてまだ残っている自分の分のケーキを食べ始める。
 そのままじゃあなと別れ、オレは会計を済ませて店を出た。
 夜風に吹かれ、ぶるりと震えては早く帰ろうと足を速めようとしたオレは、しかし視界に入った人物を見て足を止めてしまった。




 そこにいたのは、灰色の髪を帽子に纏めた少女――今、一番会うのが辛い相手だった。
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極稀に変わる偽ステシ

岡・耶麻(さて私は何処でしょう)
(おか・やま)
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『結社枠が足りない。』
明ちゃんレイナ様春美さん他若干名の背後にある残留思念。詠唱銀の振り掛け禁止。チョコと猫と幼女とノマカプと我が子をこよなく愛する。銀雨用メッセあったりします。お手紙でどうぞ。

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入学理由:能力者(てかフリスペ)のいる環境に憧れた

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